目黒は坂の多い町である。日が沈む頃になると雑居ビルの建ち並ぶその坂を、人やネオンの光が留まることなく転がり流れ始める。そんな坂の途中に無機質な、しかしどこか人の手の温もりの残るモルタルの壁が立っている。流れをほんの少し導き入れるかのように立つその壁を伝い上って行くと、この小さな和食割烹店に辿り着く。

「皆様のための家を作って欲しい。」そんなところから設計は始まった。

ここでは大きく二つのことが求められた。一つは料理に合わせて畳敷きの和を基調とすること。そしてもう一つは、訪れた人が自分の家に帰って来たかのような温かさで空間を満たすことである。

そこで聚楽土という和の素材を用いて空間全体を丁寧に包み込んでいくことを試みた。鉄筋コンクリート造の既存の梁をなぞるようにゆっくりと、そして大きく格子を描いていく。躯体を荒々しく見せるのでも、仕上げで覆い尽くしてしまうのでもなく、ある抽象度を保ちながらその両者を共存させることによって、自然なかたちで奥行きのある空間を立ち上がらせる。
土という素材を頭の上まで引き上げ編み込むことによって、素材や構造スパンから来る重量感、また床、壁、天井といった建築の構成が溶け始め、空間にやわらかさという質がもたらされる。

今日も多くの人がここを訪れている。あたたかい料理に舌鼓を打ち、大好きなお酒で肩の緊張をほどき、友と楽しく語らう。こうしてそま莉が皆の家として、この地に深く根を下していくことを期待している。

 
そま莉
2014
店舗内装